ハンブルク研修渡航記
前編
こんにちは。スタインウェイ・ジャパンの社員技術者の齋藤です。調律師としてスタインウェイの技術におよそ14年関わっています。
去る2026年2月に、2週間のハンブルク工場に技術研修に行ってきました。そのときの様子をレポートしたいと思います。
Steinway&SonsはアメリカNew YorkとドイツHamburgの2か所に工場がありますが、これまで日本に多くのピアノを供給してきたのがハンブルク工場です。そのため、スタインウェイに携わる技術者ならば誰もが一度は訪れたいと願うスタインウェイハンブルク工場。もちろん私もこれまで何度も写真や動画で見たことはありますが、実際に訪れますとついに来られたなと非常に感慨深くなります。折しも今回私たちがハンブルクに到着した時は久方ぶりの寒波が到来しており最高気温が毎日0℃を下回る寒さでしたが、いつもはハンブルクの街に雪が積もるのは珍しいことだそうです。
工場のすぐ近くにはショールームもありますが、ドイツらしく?質実剛健な佇まいです。今回はたまたまドイツ国内のディーラーさんを集めての会議に向けて準備期間中で、中にはこんなスペシャルなピアノの姿も見られました…!

ここが、私たち技術者が2週間毎日通い、研修を受ける専用の部屋です。Steinway School for Concert Techniciansと表記がありますね。中には研修に使うピアノがずらっと並んでいます。また、壁にはこれまで研修に訪れた技術者と講師の方の集合写真がたくさん飾ってあり、もちろん日本人技術者の先輩方もたくさん写っています。

研修室にはピアノの調整に使う工具も一揃いあるため、日本から重い工具カバンを引きずっていく必要はありません(大変助かります…)。

研修用のピアノはどれも製造からかなり年数の経ったピアノですが、工場で大規模な修繕が施されていることもあってか、意外に張りのある音がします。
研修内容の紹介です。ピアノアクションにはハンマーヘッドと呼ばれる、鍵盤を押した時実際に弦を叩いて音を出す部品がありますが、それらを新品の部品に交換し、パーツ交換に伴う整調・整音作業を2週間かけてじっくり行っていきます。

写真:左がハンマーヘッド、右がアクション
整調とは、ピアノのアクションやメカニックの動作寸法を整え、88鍵全てが均一に、正確に動作するよう調整する作業を指します。ハンマーヘッドを交換すると整調作業は一からやり直す必要があり、1つの鍵盤につき20以上の調整箇所があるため、これらを88鍵全て整えるのは時間のかかる作業です。研修では一つ一つの作業についてどんな意味があるのか、どんな方法があるのかについて講師の方から説明を受けつつ進めます。


例えば、ハンマーヘッドが動いた時に正確な位置で弦に当たるよう、部品に紙を貼ってハンマーヘッドの動く方向を調整する作業があります。これは求める結果(ハンマーの弦への当たり方)が同じであっても、その過程(どの厚さの紙を、どの場所へ、どんな長さで貼るのか)が作業する技術者によって異なることがありますが、このような細かな点においてもハンブルク工場ではどのように作業しているのか、講師の方がそれについてどう考えているのかを聞くことによって、作業工程への理解が深まります。
また、一つ一つの工程が正確であることの重要性について、講師の方が何度も言及していたことも印象的でした。通常、ピアノの鍵盤の深さは約10mmで、ハンマーヘッド先端から弦までの距離は45mm前後です(調整や状態によって異なります)。言い換えると、弾き手が1mm分の力を鍵盤に加えた時にハンマーヘッドはその4.5倍ほど動くことになるため、些細な調整の違いも音やタッチには大きな変化として現れてしまいます。
細かな0.1mm単位の違いを感じつつ、メカニックが完璧に動作するよう、最初の1週間は集中して整調に取り組みます。